関西学院大学アメリカンフットボール部|創部80周年記念誌
79/177

7 まさにここしかない「死に場所」を得た漢(おとこ)たちが魂を込めて準備していた。だからそのシチュエーションがきて、そのプレーがコールされたときは、サイドライン全体がその彼らの努力やバックグラウンドを知っているから、俄然盛り上がるのである。 しかし、プレーは通るときと通らないときがある。これまでの人生そのものを否定された感覚に陥る。それでもそこまで賭けてきた。6 上記の通り何か一つ取柄を持った選手にかなり特殊なプレーの要求をし、通称「死に場所」を与えた。ノーマルシチュエーションのスペシャルプレーは、ほぼレギュラーメンバーによって行われるが、このショートヤードのスペシャルプレーは普段はスカウトチームや別のところで練習しているメンバーも多く、その時だけ出てくるので全体で合わせる練習は非常に少ない。プレー自体も、3rdショートや4thショート、GLの1ydなど、限定されているため、1試合でこのシチュエーションが訪れなければ、プレーするチャンスもない。また状況によってはオフェンスコーディネータが別のプレーを選択する可能性もある。それでもこの1プレーのために、選ばれた漢(おとこ)たちは、徹底的に自分の担う部分の練習をしていた。相手の守備隊8 20年以上経った今もショートヤードの準備は続けている。当然のことながら、パワープレーだけでなくパスやミスディレクションなどのバリエーションを準備している。しかし基本的には縦に行くプレーがベースになる。フットボールにはノース・サウスという言葉がある。同じ意味ではあるが、私が尊敬する偉大な指導者の一人である明治大学ラグビー部の元監督、北島忠治さんの言葉、「真っすぐ、前に行くことを選手に求め続ける。ショートヤードはそれぞれ個人の「思い入れ」の強さが勝負を決する、そんな戦いだ。もある。そのため、バックサイドのプレーヤーも非常に重要である。ここに配置されるプレーヤーには、プレーサイドに配置するプレーヤーとは全く異なる能力を求めている。知らない人間が見たら、足を広げて、自分からヒットしに行くこともなく、2人くらいのディフェンスプレーヤーにヒットされアオテンして寝転がっている選手など、何をやっているか意味不明であろう。しかし、歴代のプレーヤーの中にはこの通称「不細工ブロック」に文字通り命懸けで取り組み、2人の守備選手を巻き込みアオテンして寝転がった選手がたくさんいる。そのブロックを要求し、そのブロックを完遂した選手には最大限の賛辞を送っている。このブロックを完遂するには頭の良さが必要で、相手がどんなアラインから、どんなブリッツを仕掛けてきても、キャリアがLOSを抜けるタイミングを知り尽くしていなければならない。過去から現在にも素晴らしい「バックサイドプレーヤー」が存在したことは言うまでもない。形は、こちらの攻撃隊形がアンバランスであったり、特殊な隊形が多いのでノーマルシチュエーションのスペシャルプレー以上に想像が難しい。それでもビデオを見てとにかく予測し、自分のやることを想像の中で考え抜き、グラウンドで練習を続けるのである。ある選手は「ビデオの見過ぎで嗚咽が出る」と言っていた。しかし個別練習も、またビデオを見てひたすら予測を立てることもやめない。もしかすると使われることもないかもしれないこの1プレーのために。そのプレーしか出場しないのであるから、そのプレーにかける思いは半端ない。79

元のページ  ../index.html#79

このブックを見る