関西学院大学アメリカンフットボール部|創部80周年記念誌
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柔能く剛を制するといった痛快きわまりない時代から大きさこそ強さの証、柔といわれるしなやかさは大きさという剛に完膚なきまでに叩きのめされ続けるといった我が部にとって屈辱的な時を経て、大きさという強さの先にあるトレーニングの真髄に辿り着こうとした30年を記す。 ファイターズの選手はフットボールをよく理解していると言われ、長きにわたりフットボール界の栄冠を独り占めにしてきた。その時代に終止符を打ったのは怪物と言われるほどに巨大な身体を武器としたギャングたちであった。彼らの絶対的な体格による差によって理性のフットボールは根こそぎ破壊されファイターズは本気で自分たちの身体に向き合わなければならなくなったのが80年代半ばから90年代半ばの10年であったと記憶する。 私がチームに関係するようになったのは、この体格差を埋めるために身体を何が何でも大きくするということへの取り組みの成果が見え始めた90年代半ばであった。トレーニング中も何かしらの食べ物を口にしながら重りに真摯に向き合い、自分の身体の筋肉量をあげていた。少しずつ他チームのフィジカルモンスターとも互角程度に渡り合える様になってきていたように感じた。 質量の違う物体同士が同じスピードで衝突し合うと言わずもがな質量の大きなものが優位となる。この質量の部分、フットボール選手に言い換えれば筋肉量、体格の差をつけてフィールドの戦いを優位に進めようとした時代であった。 この後、その体格差だけでは如何ともしがたい難敵があらわれることとなる。アニマルと称された赤豹軍団の出現で身体の大きさだけを追求する時代は終わりを告げることとなる。 学生スポーツは時間とも戦っていかなければならな油谷 浩之(1988年卒)い。1年生でさえ大学生となりファイターズに入部した時には既に彼らには4年間という時間はない。この限られた時間をいかに有効に使っていくかが勝負の分かれ目といっても他ならない。そのような時間制限の中でフットボールの技術、戦術そして体格に主な目的をおいた身体づくりのトレーニングだけでも時間が足りないところへフィジカル・フィットネスに優れた相手の出現は、トレーニングの分野だけにおいても何から着手していけば時間の制約がある中で、最も勝利へ効率よく近づけられるのだろうかと途方に暮れたのを思い出す。そのような時に全米で屈指のフィジカルを誇るネブラスカ大学のトレーニング本を手にすることとなった。そこに掲載されていたあることがその後のファイターズのフィジカル強化に大きな影響を与えることとなる。 それは高校生と大学生の各ポジションによる体力項目の評価表であった。 学生トレーナーとすぐに同じ体力測定を実施し、その評価表に基づいて各選手の数値を照らし合わせることにより各個人のトレーニングをしなければならない体力要素を洗い出せると信じて疑わなかったのだが、そう事は簡単には進まなかった。なんとファイターズの選手が出した記録がアメリカの高校生の評価表での下位ランクにもあてはまらなかったのである。でもどうしてもこの評価表での各体力評価をあきらめきれなかった。それは大学の体育会活動という限られた短い時間で各選手の強化しなければならない体力要素を取捨選択し、その強化ポイントに集中させて効果を出していかなければ、並みいるライバル、特に我々ファイターズとしてはアニマル赤豹軍団に勝利していくことが困難と考えることは容易であったからである。でもこの考えは当時の他の学生チー80身体の大きさだけを追求の終焉4年間という限られた時間での挑戦1930年間の戦術の変遷トレーニング革命の時代の先に

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